吉川晃司のソロ復帰への
意気込みを感じざるを得ない
アツきセルフプロデュース作品
『LUNATIC LION』

ロックへの憧憬と堂々たる歌唱

肝心の『LUNATIC LION』の中身に関して言うと、ロックのダイナミズムで突っ走ったアルバムということができると思う。M1「VOICE OF MOON」とM11「Virgin Moon〜月光浴」の後半(つまり「月光浴」)は歌詞がないインストではあるものの、しっかりとロックを感じさせるサウンドだし、強いて言えば、民族音楽的なパーカッションからファンキーに展開するM6「DUMMY」にいわゆるロックとは異なる香りを感じなくもないけれど、あくまでの強いて言えば…であって、これも全体を通して聴けばファンクロック、あるいはミクスチャーロックであることが分かる。個人的に最もロックを感じるのはM10「永遠につくまえに」。ミドルテンポでドラマティック。コードもお洒落な感じで、やろうと思えば、いくらでもメロウなナンバーに仕上がることもできたように思う。ここに入っている鍵盤だけを追うとそんな気もしてくる。サックスを入れでもしたら、だいぶアーバンな雰囲気にもなるだろうし、AOR方向へ行くことも可能だっただろう。だが、もちろん、そんなことは吉川晃司の頭の片隅にも過らなかったに違いない。ミドルテンポであっても、パキッと印象的なギターが聴こえてくるところは、吉川晃司がロックであることの矜持のようなものを感じてしまうのである。

M10だけでなく、M2「LUNATIC LUNACY」、M3「不埒な天国」、M4「Jealousy Game」と、アルバム冒頭から重いギターが連続するところは、まさにロックのダイナミズムそのものだが、本作でロックを体現しているのは決してギターサウンドだけではない。とりわけベースとキーボードの躍動感が凄まじい。ベースは後藤次利で、キーボードはホッピー神山。この他にも何人かキーボーディストが参加しているが、“KOJI KIKKAWA AND THE CRIMES”としてクレジットされているのはホッピーだけだ(余談だが、バンド名義にしたところに、吉川晃司の憧憬を感じてしまうのは穿った見方だろうか…)。どの楽曲も両名のプレイの自己主張の強さははっきりとうかがえる。プロデューサーである吉川は両名のレコーディングに手を焼き、[最終的にはトラックダウンにおいて余計な音を全部取り払った上で吉川が自身の好む音にまとめた結果、後藤と神山は「ない! 音が!」と激怒した]という逸話もあるようだが、M3のサビなどでそれぞれ個性がしっかりと発揮されていることは確認できる。前述したM6のファンクのみならず、M8「ONLY YOU」でのシャッフル、M11「Virgin Moon〜月光浴」でのR&Rと、バラエティーに富んでいるのも本作の特徴ではあって、それを成立させていたのも、こうした名うてのプレイヤーの確かな手腕があってのことだろう。

最後に強調しておきたいのは、こうした強固なメンバーが彩ったサウンドに乗せた吉川晃司のボーカルの力強く、自信に満ちあふれた様子だ。歌は収録曲の全てにおいて素晴らしく、M5「虚ろな悪夢」で見せる疾走感ある歌い方、M8「ONLY YOU」での若干爽やかさ感じるパフォーマンスもかなり良くて、ぜひ注目して聴いてみてほしいところだが、個人的にはM4「Jealousy Game」、M9「Barbarian (LUNA MARIA)」を強く推したい。とりわけM4はBメロ~サビで、M9はAメロ~Bメロがいい。ワイルドでありながらもどっしりとした確かな存在感。何と言ってもセクシーだ。吉川晃司でしか出せない男の色気に溢れている。日本語を英語っぽく発音する“巻き舌唱法”も吉川晃司を象徴する歌唱ではあろうが、腹から低音を艶めかしく出すような歌い方もまた、デビュー当時から変わらぬ吉川晃司特有のものであろう。その歌唱を、歌詞、サウンドと相俟って、それまで以上に聴かせているように感じられるのだ。それもまた本作『LUNATIC LION』のいいところだと思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『LUNATIC LION』1991年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.VOICE OF MOON
    • 2.LUNATIC LUNACY
    • 3.不埒な天国
    • 4.Jealousy Game
    • 5.虚ろな悪夢
    • 6.DUMMY
    • 7.Weekend Shuffle
    • 8.ONLY YOU
    • 9.Barbarian (LUNA MARIA)
    • 10.永遠につくまえに
    • 11.Virgin Moon〜月光浴
『LUNATIC LION』('91)/吉川晃司

OKMusic編集部

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