『スナックJUJU
〜夜のRequest〜』に見る
JUJUらしい上品なアレンジと
日本音楽史

その選曲が感じさせるアーティスト性

14.「恋人よ」
【原曲】五輪真弓の18thシングル(1980年)。
 オリジナルのピアノ伴奏のイメージが強く、誰がやっても過度なアレンジは難しいと思われる同曲。JUJU版も冒頭を聴く限り“やはり無難にまとめたか!?”と思ったものだが、そう思ったことをすぐに反省。ブリッジ、2番のサビ前、ラストサビのサウンドにしっかりと各パートの自己主張が発揮されている。編曲は亀田誠治氏。さすがのひと言。

15.「GOODBYE DAY」
【原曲】来生たかおの10thシングル(1981年)
イントロ、中盤、アウトロに航空機の飛行音とモノローグがSE的に入っているものの、サウンドはバンドの音のみでまとめられている。オリジナルにもあったストリングスもない。シンプルと言えばシンプル。でも、だからなのか、歌唱にはより一層、熱が入っているように感じられる。アウトロでのギターも熱い感じがする。

『Request』が文字通りリスナーからのリクエストを募った中から選んだ楽曲で構成されていたのに対して、本作は[自身のルーツでもある歌謡曲を大人の上品をテーマに沿った楽曲]が収められている([]はWikipediaからの引用)。原曲の初出も、1974年発表の梓みちよ「二人でお酒を」から1987年発表の鈴木聖美 with Rats&Star「ロンリーチャップリン」と、案外幅広い年代からピックアップされており、おそらく彼女が物心付く前…というか、彼女が生まれる前の楽曲も見受けられることから、JUJUの音楽的な素養はかなり早い段階から育まれていたことも分かる。既発曲のカバーではあるということは、すなわち、歌詞やメロディーに(少なくとも我々にそれが具体的に分かる形での)彼女の心情やメッセージが込められることはないけれども、選曲次第でアーティスト性が表れるものだと、改めて感心させられた。

また、本作収録曲は全てヒット曲ではあるので、メロディーの耳馴染みにおいて今更ながら言うことはないし、彼女もおそらくその観点からチョイスしたのだろうが、興味深いのは歌詞だ。ハッピーな内容がほぼない。《また一日 おだやかならば それでいい》と歌っているM15「GOODBYE DAY」は唯一アンハッピーではないと思しきものだが、あとはほとんどが悲恋。主人公の想いが成就していない(M5「桃色吐息」とM11「シルエット・ロマンス」の内容は成就か非成就か微妙だが、ストレートにハッピーな感じがないのは確かではなかろうか)。昭和のヒット曲ということだけで言えば、Rats&Starなら「め組のひと」という景気のいいヒット曲があって、それが彼らにとってのナンバー1ヒットだし、梓みちよには「こんにちは赤ちゃん」がある。石川ひとみなら「プリンプリン物語」だ。まぁ、それは冗談にしても(後半は特に)、『スナックJUJU 〜夜のRequest〜』は、昭和にはそれだけ別れ歌や悲恋のヒット曲が多かったことの証拠ではあるし、数字以上にのちにインパクトを残したことも分かる。コンプライアンスやフェミニズムの観点からすると、本作には令和の現在には厳しいと思われる表現もある。今なら、そもそも発表されないようなフレーズがあるかもしれない。しかし、30年以上経ってもオリジナルとは別のシンガーが“自分も歌ってみたい!”と思うほどに多大な影響を与えたのだ。そこに惹き付ける何かがあることは間違いない。そう考えると本作は、昭和から脈々と流れる日本のポピュラー音楽の特徴を捉えることができるアルバムであるとも言える。

TEXT:帆苅智之

アルバム『スナックJUJU 〜夜のRequest〜』2016年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.六本木心中
    • 2.ロンリーチャップリン with 鈴木雅之
    • 3.夏をあきらめて
    • 4.まちぶせ
    • 5.桃色吐息
    • 6.駅
    • 7.二人でお酒を
    • 8.DESIRE -情熱-
    • 9.恋におちて -Fall in love-
    • 10.夢の途中
    • 11.シルエット・ロマンス
    • 12.つぐない
    • 13.ラヴ・イズ・オーヴァー
    • 14.恋人よ
    • 15.GOODBYE DAY
『スナックJUJU 〜夜のRequest〜』('16)/JUJU

OKMusic編集部

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