『SENTIMENTALovers』の
両想いに至らない歌詞から
平井 堅が恒久に求めるテーマ、
コンセプトを想像する
それは平井 堅の本質なのか
そして、それは平井 堅というアーティストの本質に近いテーマでもあるように思う。“ように思う”というのは、筆者が平井 堅のオリジナルアルバムを全てつぶさに聴いてないからだが、この度、リリースされたニューアルバム『あなたになりたかった』に関して彼はこんなコメントを寄せている。
「憂鬱と夢見心地を行ったり来たりの我が心模様は、いつだって誰かを羨み、此処ではない何処かに行きたがるのです。」
短文で若干抽象的な表現ではあるが、“憂鬱”と“夢見心地”が『SENTIMENTALovers』にも通底していることはここまで説明してきた通り(“夢見心地”は“妄想”と変換可能だと思う)。そもそも『あなたになりたかった』というタイトルからして、想いを通わせたいという強い気持ちを感じ取ることもできる。決して叶うことのない“両想い”を希求する…というのは、アーティスト、平井 堅の恒久なるテーマ、コンセプトなのかもしれない。
影を覆い隠す歌唱の説得力
平成を代表するナンバー、M5「瞳をとじて」については説明するまでもなかろう。アレンジを含めてドラマチックな展開が分かりやすいメロディーをさらに感動的に演出している。そして、何よりもハイトーンなヴォイスが楽曲の中心にあることで、聴き手の中心線がぶれない印象がある。この歌唱によって、歌詞の物語に影があるとか、サウンドがマニアックだとかいうことを、覆い隠されてしまうようなところもあるのではないかと思う。そのシルキーな歌声に魅了されると言えばいいだろうか。細かいことはどうでもいい…と言い切ってしまうのはあれだが、あの歌声にはそんな気にさせられる。シリアスだが、スリリングではない。そんな言い方もできるだろうか。いずれにしても、歌声がいい意味で強く印象に残る。そこが彼のシンガーとして秀でているところであり、特異なところであることに改めて気付かされた『SENTIMENTALovers』である。それでは、歌詞のテーマはどうでもいいかというと決してそうではない。本作を聴き終えた時に感じる余韻は、この内容でなかったとしたら、決して味わえないものであることは、これまた疑うまでもないことだ。
TEXT:帆苅智之