ケラリーノ・サンドロヴィッチ
meets 秋元 康で創造!
彼らにしか成し得なかった
歌謡曲が並ぶソロ作『原色』

バラエティーに富んだ歌謡曲

現在、廃盤となっているからか、『原色』についてケラ自身が語っている文献を探すことが困難であったため、本作の制作背景がどうであったのか、彼がどう作品に臨んだのかは定かではないけれども、M1「情熱の炎」のイントロでの如何にもな昭和の流行歌風の女性コーラスに続いて、《Hi! This is ケラリーノ・サンドロヴィッチ! Most important Japanese singer 歌謡曲singer!》と叫んでいるから、歌謡曲を意識した作品作りをしたことは議論を待たないであろう。以下、ザっと『原色』収録曲を個別に解説していこうと思うが、いずれもまさしく歌謡曲である。

M1「情熱の炎」は、《アカプルコの陽射し》という歌詞があるので、これはマリアッチだろうか。どのジャンルに分類されるのかはよく分からないけれども、ラテンフレイバーのダンスチューンであることは間違いない。パーカッシブなサウンドが印象的で、チャカポコとカッティングするギターと軽快なベースラインとでグイグイと全体を引っ張っていきつつ、サビでメロディーが開放的に展開していく。それでいて、完全に開けっ広げではなく、サビ後半ではマイナーに落ち着いていく辺りは、日本的な叙情感と言えるかもしれない。少しタイプは異なるが、サザンオールスターズの「チャコの海岸物語」に近いというか、大人が真剣にパロディを楽しんでいる様子が伝わってくるようだ。

M2「Continueしたい」は一転、ボサノヴァ。ムーディで落ち着いた雰囲気を漂わせる。派手さこそないが印象的なフレーズを繰り返すギターは元より、間奏でシャレオツに鳴るピアノも心地良い。バブルっぽい歌詞に引っ張られてか、全体的に1980年代風な感じがするのは気のせいだろうか。M3「上海雪」はシングルとしてもリリースされたナンバー。中華風の音階を持つポップチューンであり、パッと聴き、またも景色が一転したかのような印象を受けるが、ギターの刻みがスカっぽく、M3からつながりを感じさせなくもない。また、楽器の主旋律はシンセが奏でていて、酷似している…というほどではないものの、YMOを彷彿させるところもある。

M4「マリンタワー」はシティポップ風。語弊があるかもしれないけれど、とんねるずが杉山清貴&オメガトライヴや稲垣潤一辺りのパロディーをやった感じと言ったら、その匂いが伝わるだろうか。メロディーは演歌やムード歌謡寄りだろうが、都会的サウンドを作り出そうとしている感じは十分に伝わってくる。先行シングルでもあったM5「テレビのボリュームを下げてくれ」は明らかに井上陽水の「氷の世界」へのオマージュであろう。ゲートリバーブの効いたドラムは如何にも1980年代的な響きではあるが、印象的なメロディーのリフレインに、その意味はよく分かないけれど断定的な物言いが連続する歌詞を乗せていくところはまさにそんな感じ。Bメロの展開もかなり「氷の世界」に近い気はする。これも大人が真剣に遊んでいる感じがしてとてもいい。

ミドル~スローのM6「サヨナラの前に接吻を」はChristopher Cross辺りを思わせるAOR風ナンバーだが、これが何とデュエット曲。お相手はおニャン子クラブの元メンバー、会員番号19番の“ゆうゆ”こと岩井由紀子だ。これもまた1980年代的ドンシャリ感が如何ともし難いサウンドではあるものの、全体的には大人っぽい空気感を孕んでいて、その点では“ゆうゆ”という人選は微妙ではあるが、楽曲としては悪くない。M7「マリー(瞳の伝説)」はGSのパロディーだろう。オケヒ的なシンセも導入されていて、音作りにまで凝った感じはしないものの、歌メロは完全にGS。ブルー・コメッツに若干ザ・スパイダースが混じった旋律は、流石に井上大輔といったところだろうか。

M8「ほっといて」、M9「いくじなし」はともにシャンソン。とはいえ、本場フランスの…というよりも、和風というか、戦後、日本語でカバーされたシャンソンへのオマージュが感じられるナンバー。この2曲でアルバム『原色』は締め括られる。M9はタイトルからも明らかに、越路吹雪のナンバーで、WAHAHA本舗所属の梅垣義明のパフォーマンス時に使われている「ろくでなし」を意識したことは間違いなかろう。アコーディオンの音色や合唱(というよりも、シンガロング風)や歓声にも酒場っぽさがあって、雰囲気はとてもいい。

OKMusic編集部

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