TOKYO No.1 SOUL SET
『9 9/9』から検証する、
他のバンドは真似すらできない
彼らの革新性
生演奏を凌駕するグルーブ
M7「時間の砦」もそのリズムの観点で聴くとおもしろいナンバー。これがまた単純なループではないのだ。わりと手数が多いというか、ギターのメロディーや歌メロに呼応した感じでシャカシャカと南米っぽいダンサブルなリズムを刻んでいくが、途中から裏打ちでシンバルを強調したトラックに変化。ラップの譜割りはそれほど変わってない様子なので、仮にリズムが同じままで続くなら…と考えると、もしかすると単調に聴こえたかもしれない。いや、というよりも、このリズムの変化は楽曲を単調にさせないというか、全体に起伏を持たせるためにやっていると考えられる。ポップに仕上げるため…と言うとやや語弊があるかもしれないけれど、そんな工夫を見て取れる。
ソウルを感じさせるM8「under the rose」はゆるやかなテンポで、エレピもギターも落ち着いた雰囲気で進むナンバーなので、M7に比べればリズムは淡々としていて、パッと聴きには、それこそ単調に刻まれていくけれども、途中ブレイクを入れたりと、やはり聴かせどころをわきまえた処理がされているところも聴き逃せない。
M9「夜明け前(9 9/9mix)」はシングルがスマッシュヒットを記録したナンバーだ。さすがに《そっと 繰り返されてる町に ふっと 駆け出してみたら/そっと 風断ちかけてた夜に やっと 終わりを見れたら》のメロディーがかなり耳に残るが、イントロで奏でられるピアノの旋律もシンプルながら相当にいいし、スキャットも印象的。《緩やかな朝靄に包まれて》以降の歌メロも派手さはないが、背後のコーラスのアンサンブルによってとてもきれいに聴こえて、ソウルセットの肝がメロディーであることを再確認できるところである。…なんて思っていると、そこに絶妙なタイミングでラップが乗ってきて、別にラップを恋しく思っていたわけではないのだけれど、不思議と“待ってました!”とばかりに気持ちが盛り上がってしまうという、妙な高揚感がある。そのラップが《この町を出ることにする》と締め括られるに至っては──“文学的”と言われるだけあってか、ソウルセットのリリックははっきりと意味が掴めるものは多くない気がするのだが、M9では何か決定的なメッセージを突き付けられたようで、他ではなかなか味わえない緊張感が孕む。やはり名曲なんだと思う。後半になるとタンバリンだろうか、チャカチャカとした音がリズムに並走していくのも、M7で指摘したことそのものだろう。
クラップと妙な電子音に乗ったスキャットから一転、ジャジーなピアノのループが展開するM10「隠せない明日を連れて」も相当に興味深い。分析すれば、とあるピアノのフレーズをサンプリングしてトラックを作り、そこにラップを乗せているということになるのだが、“そこを切り取るか!?”というおもしろさが圧倒的にあるし、しかもそれをペダンチックにやっているのではなく、“これ、いいでしょ?”といったフレンドリーさがあるように感じられるところが素晴らしい。圧倒的なポップセンスを浴びるようなナンバーである。
M11「Bow & Arrow 〜あきれるほどの行方(9 9/9mix)」は本作の中でも白眉なナンバーと言えるだろう。スパニッシュなギターから始まって、ロック的なカタルシスを持った鋭角なリズムでグイグイと楽曲をけん引し、セクシーで圧しの強いメロディとシャープなラップが乗っていく。音数も多く、さまざまなフレーズが雑多に重なっていくので、中盤ではややカオティックにもなっていくのだが、その個々のフレーズがそれぞれにスリリングなので、緊張感がリレーされていくというか、楽曲が進行するにつれて増幅していくような印象を受けるのだ。その空気をひと言で言うと“グルーブ”となるかもしれない。本来“グルーブ”とは演奏を指して言うもので、トラックメイクには使うべき言葉ではないのは承知している。だが、このカッコ良さは“いいグルーブ”と呼びたい代物だ。本稿序盤で、ソウルセットはループミュージックではあるが単純なそれではないというようなことを言ったのは、これがあるからである。単純な繰り返しではないどころか、生演奏のバンドを凌駕するようなサウンドを創造する──それがソウルセットの本質なのではないだろうか。
M11で極に達するアルバム『9 9/9』は、続くM12「Sundae Solution」で開放感のあるメロディーをまったりと聴かせ、ポップなM13「New Week」で締め括られる。共に歌もラップもないけれど、それ故にこのバンドの奥深さを感じさせるような締め括りだと思う。
音源を聴きながら進めていたらついアツくなって、つらつらと思うがままに好き勝手に書いてしまった。最後に、かなり昔(多分25年前)、渡辺俊美にインタビューしたことを思い出して、その掲載誌を引っ張り出してきたら、彼はこんなことを言っていた。“もし過去に自分たちみたいなやり方をやっている人たちがいて、そのやり方を教えてくれるというなら教えてほしいです”。自らの革新性についてかなり自覚的だったことが分かる台詞である。確かに『9 9/9』にはそう豪語するだけのサウンドが記録されていた。
TEXT:帆苅智之