倖田來未、ブレイク期の
アルバム『Black Cherry』で
“エロかっこいい”とは
何だったのかを改めて考える
R&Bとロックのカッコ良さ
日本より先に全米でデビューし、ブレイク前まではテレビ出演よりもクラブ中心で活動していたというプロフィールからすると、本場のR&Bをやろうという意識は強かったのだろうし、そうなるとそこにエロスは必要条件である。勢い“エロカッコいい”となったとしても納得…というか、分からなくもないとは思う。それほどにサウンドはシャープでカッコ良い。コンテポラリーR&B、とりわけ米国の女性シンガーに詳しくない自分のようなものでも本場っぽく感じる。『Black Cherry』は半可通の自分でも“2000年代のR&Bサウンドはこんな感じだったんだろうなぁ”と思わせるに十分な作り──当時の先端スタイルであったのは間違いないと思う。ちなみに、M5「月と太陽」はR&B色は薄い印象ではあるけれども、オートチューンを駆使しているのがポイント。当時の日本でケロケロヴォイスを取り入れるのが結構、早かったことも分かる。
カッコ良いのはR&Bだけではない。『Black Cherry』ではカッコ良いロックサウンドを聴くこともできる。まず印象的なのはM3「人魚姫」。M1~M2から一転、深めのディレイがかかったエレキギターが聴こえてきて、世界観が一変するのが面白い。いわゆるラウドロックに分類していいだろうか。間奏で暴れているギターソロもいいし、フィルがいかにもパワー系のドラムもシャープでいい。はすっぱな印象の歌い方は若干意外な気もするが、これはこれで楽曲に合っている。ロックサウンドはM11「Cherry Girl」も同様。ダンスチューンという趣きが強めではあるものの、重めのエレキギターにロックスピリットが垣間見れる。こちらもまたいなせな歌い方がなかなか堂に入っていて、かなりいい感じだ。R&Bにしてもロックにしても、スタイリッシュな彼女の凛とした佇まいでパフォーマンスされたことを考えると、エロスはともかく、シンガーとしてかっこ良かったことは疑うまでもなかろう。
この『Black Cherry』のジャケットに写る彼女はシックな印象ではありのだが、最近の作品でも倖田來未はかなり露出度の高い出で立ちではあるので、ビジュアル面ではエロスを感じさせるところは否定できないと思う。そんなところで、“エロカッコいい”という形容が出来上がったのだろうし、それで概ね間違いないとも思う。こうして本作を検証したところにおいては、エロは要らなかったのかなとも思うが、何も知らない状態では──筆者自身が今も“倖田來未と言えば、やっぱり“エロかっこいい”でしょう!”となったことを考えると、ファン以外に向けたイメージ戦略としては正しかったようだし、それは大成功したと言える。結局、自分はまんまと彼女らの術中にハマっていたことを知ったのであった。
TEXT:帆苅智之