米倉利紀の7thアルバム『i』は
本場R&BとJ-POPを繋げた
日本R&Bの完成形のひとつ

J-POPとのシームレスな融合

M9以降はアップチューンが連続する。とはいえ、それぞれに個性的。M9「How are you doing?」はビート強めでありつつもポップ。サビはキャッチーで明るく、親しみやすさを感じる。M10「Sex with You!」はファンク色強めで、セクシーな歌詞はそれに呼応したのだろう。サビのリフレインは、昨今のK-POPにも通底しているのではないかと思ってしまうほどのシャープさがあると思う。

M11「Oh! Boy.....」はArty Skyeのアレンジでイントロから確実に音の違いが分かる代物。やはり楽器のアンサンブルが素晴らしく、特に間奏のギターは絶品である。メロディに日本語が上手く乗っているからか、J-POP的な傾向が強いと言えるかもしれない。そんなM11からM12「Yes,I do.(with BIG HORNS BEE)」へつながるのも心憎い。よく分かっていらっしゃる。M12は本作の前年にリリースされたシングルナンバー。BIG HORNS BEEのメンバーで、フラッシュ金子こと、金子隆博が作編曲を手掛けている。サウンドはもろにモータウンで、歌は実に大衆的。曲の展開も本作中、最もJ-POP的だ。ブラックミュージック要素も邦楽的ポップさも隠さないというか、どちらもスポイルしない姿勢が発揮されていると言える。これは米倉利紀の基本的なスタンスではないかと思う。M13「BE HAPPY」もそうで、ヒップホップ的なニュアンスもありつつ、Bメロではっきりと日本的なメロディーを取り入れていて、R&B要素と親しみやすさを上手く融合させている。M6でオリジナルバージョンを収録していながら、M14「Love in the sky(single version)」も収めているのもその関連だろう。極端なことを言えば、M14はなくとも──もっと言えば、M12~M14もなく、M11からメロウなバラード、M15「Hold you tight」で締め括ることも可能だったはずである。米国で現地のスタッフとともにレコーディングし、言わば本場のR&Bをクリエイトしてきたと言える米倉利紀。それは本作、とりわけ前述したM1~4がはっきりと示している。しかしながら、マニアックにそれを求めるだけでなく、しっかりと日本のフィールドを意識しているのもまた米倉利紀なのである。一度だけ、彼にインタビューさせてもらったことがある。2020年1月、24th『pink ELEPHANT』のリリース時のことである。彼はこんなことを言っていた。以下、そのインタビューから一部抜粋する。

“日本で生まれ育っている以上、僕たち作っている側も聴いている人たちも、J-POPや歌謡曲というものを避けることはできないと思うんです。洋楽がどれだけ好きでも、J-POPや韓流のものすごく美しいメロディーに心を打たれるのって、僕らの生き様なんだと思うんですよ。そこは米倉利紀として大事にしたいと思っていますね”。

彼のアーティストとしてのスタンスは世紀を跨いでも変わっていなかったことが分かる。少なくとも四半世紀、自らが標榜する音楽を貫いてきた。そのこだわりは比類なきものであることは言わずもがなであろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『i』1998年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.I will
    • 2.Break it down
    • 3.baby c'mon
    • 4.Drive me crazy
    • 5.East 14th Street
    • 6.Love in the sky(original version)
    • 7.Mr.Lover
    • 8.ANNIVERSARY
    • 9.How are you doing?
    • 10.Sex with You!
    • 11.Oh! Boy.....
    • 12.Yes,I do.(with BIG HORNS BEE)
    • 13.BE HAPPY
    • 14.Love in the sky(single version)
    • 15.Hold you tight
『i』('98)/米倉利紀

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着