藍坊主がデビュー作にして
如何なく“自分らしさ”を掲げた、
瑞々しさあふれるアルバム
『ヒロシゲブルー』
“青春パンク”に括れない方向性
《おだやかに安らぐ瞬間を僕は求めて探してるはずなのに/時々幸せなことが空しさに変わるんだ》《みんなで手をつなぎましょう/笑顔を絶やさずに過ごしましょう/こんなセリフを聞くたび/いつからか 眉間にシワが走った/もうたくさんだとつぶやき 自分をごまかしてた》(M2「サンデーモーニング」)。
《僕が頼んだ昼飯を/何も言わずに 怒らずに 差し出す/その牛丼の冷たさが 君の優しさに思えた》《そう一度 ただ願いを/叶えてくれる 神様がいるなら/もう一度 あの日だけを/やり直させてくれないかと願う》(M5「追伸、僕は願う」)。
《センチメンタルを越えて 何だか涙が出そうだ/僕の中できっと何かが 変わってしまったんだ》《僕が大人になるその中で 失う全てのもの/強く強く抱きしめたい それなのにどうしてだろう/一つ一つすり抜けてく 僕の両手をかすめて》(M7「センチメンタルを越えて」)。
逡巡と悔恨。人によっては反抗期ならではのこと…と簡単に片付けるかもしれないし、こういう世界観を以て彼らは“青春パンク”と呼ばれたのかもしれないとは思う。その中身への洞察は一旦置いておくとして、こうした世界観をバンドサウンドを伴って表現したことにもまた、彼らの良さはあるだろう。シンガソングライターにはない、バンドらしさを大いに感じるところである。
最後に歌詞についてもう一点。これは最初に『ヒロシゲブルー』を聴いた時はあまり気に留めなかったことだが、今回聴いて今日的なテーマが綴られていることに気づいた。それは、M7「センチメンタルを越えて」とM13「僕らしさ君らしさ」の以下の部分。
《精神解放が彼をゲイにした/人間模様は色とりどり/彼は彼の哲学を持ち 僕は僕の思想に生きる》《幾億もの人の存在 幾億もの人の個性がちらばってる/この世界に僕は独り 世界に君は独り/さぁ 解き放っていこう 本当の自分を》(M7「センチメンタルを越えて」)。
《育った場所 生まれた日 声の特徴 笑い方/出会った人 出会う人 体や顔の形/今の現状 向かう夢 得意な事 下手な事/血液型 悪いクセ 好きな人のタイプ/すべて自分は自分にちょうどいい/ちょうどいい「らしさ」 ちょうどいい「明日」》(M13「僕らしさ君らしさ」)。
日本で初めてLGBTであることを公表した地方議員が誕生したのが2003年。本作リリースの1年前である。その2004年には性同一性障害特例法施行が施行されている。それと直接関係があったかどうかは分からないけれど、これらの楽曲では日本で今もまだ燻っている問題にもフォーカスを当てているように思える。LGBTだけでなく、外国人に対する姿勢も含まれよう。先に指摘した通り、若さゆえの精神の葛藤を描いた歌詞も多く、そこで見れば“青春パンク”と言われるのも分からないでもない藍坊主だが、そこから先にある広義の“らしさ”を標榜していたことには注目したい。自分を含めて周りがいかに旧態依然だったかも改めて突き付けられた。
TEXT:帆苅智之